わたしは就活が嫌いだ

真っ黒なスーツにトレンチコートの学生が増えた。わたしが住んでいるのは学生街だから、たとえば家庭ゴミを捨てに行く朝にも切羽詰まった就活生を見るし、博多の駅に行ってしまえばそれはさらに顕著になる。

 

冬がそろそろ店じまいをしようとしていて、最近は春の匂いを感じることも増えた。これまでは大好きだった春の香り、それは花粉の到来をも含んでいるので手放しには喜べないのだが、胸いっぱいに吸い込むとどこか切なく、それでも心地いい感情に包まれていた。

 

わたしは就活に失敗した。

 

行きたかった業界には行けず、就活のイロハもまともに得ないままなんとなしに進路を決めてしまった。幸い縁のあった会社がホワイト企業で、尊敬できる人物にも出会えたため何とかなっているものの、という話である。

 

コピーライターを目指していた。クリエイティブの仕事をしたかった。モノを作って、ふだんは素通りする人々の注目を集めたかった。「気づき」を与えて、その人の世界を変えてしまいたかった。

 

それは全て叶わぬ夢となった。

 

コピーライターになるには、途方も無い努力が必要で、努力を続ければ誰でもなれると講師は言うけれど、努力を続けている途中で「自分はやめた方がいい」と思うことをなおも続けるのは拷問であるのだと、思うのだ。

 

今では、わたしはコピーライターよりもっと長い文章を扱う職業に向いていると考えている。広告業界の独特さ、好意と悪意の表裏一体、若さからくる絶望、そんなところ。

 

コピーライターにはなれなかったけれど、いつか会社で結構社長には近いくらいの、役職に就きたいと考えている。ルールがあるからこれは実現できない、という問題の前で右往左往する時間を減らし、ルールから変えていける立場になりたい。

 

まじめに、楽しく、お金を稼ぎたいと思う。所詮みんな、お金がほしいだけ。プライベートも保障してほしいだけ。たまには沖縄にバカンスしに行きたいだけ。

 

就活を終えてからしまい込んでいた真っ黒なスーツを、引っ越し前にクリーニングしなければと思っている。ストッキングが破れて泣きそうになったり、夜行バスで脚がむくんだり、面接の後にバスで泣いたり、そんな思い出は、クリーニングしても染み付いているのだろうな。

 

もう1回やり直してもうまくいく気はしないから、やっぱりわたしは就活がきらい。

 

最近:車校で運転を頑張っています

願望:携帯を機種変更したいです

今読んでいる本:鳩の撃退法/佐藤正午